2016/12/27 　先日2A3シングルを作り上げた人の話である。
　彼はその後プリ・アンプを作るつもりで、様々な本でどのようなアンプを作ろうか検討していたが、回路の複雑さなどで先延ばしにしたようである。

　彼は2A3シングルが完成する前に、実はタンゴのMX-280に相当する電源トランスを手に入れていたのだ。
　プッシュ・プルを作るんだったら6V6あたりの片ch10Wほどのアンプを薦めていたので、そのような大きいトランスではちょっと使いにくい。そのトランスを使うんだったら、2A3や6CA7、6L6-GCなどが適当だけど、だいぶ難しくなるよと言っておいたから、作るにしてもかなり先の話になるだろうと思っていたのに、それを使って今度はプッシュ・プルを作ってみたいと言ってきたのである。そして・・・

　「実は・・・この間タンゴのFW50-5を落札しました」
　「ひぇーっ！なんでそんなに早く、また大きいのを・・・」
　「ボーナスも入って気持ちも大きくなっていたし、大きい出力トランスが良いかなと思って・・・どのような球が良いですか？」
　「ん〜む、それだったら6CA7か6L6-GCだよ」
　「2A3はどうですか？」
　「うん、2A3でも良いね」
　「実は・・・黙っていたけどチョークもあるんです。10Hで250mAの」
　「えーっ！じゃあ、あとは球さえ用意すれば作れるじゃん」
　「ハイ！今度はシャーシにアルミを使おうと思っています」
　「そうだね。それが良いね。でも配線が終わってもハンド・キャリーで店に持ってくることは出来ないなぁ・・・自分で配線チェックするしかないよ」
　「いや、根性で持ってきます」
　「いや、それはやめた方が良いよ。車じゃなきゃムリだ」

　どうやら彼の頭の中では2A3プッシュ・プルを考えているようである。
2016/12/04 　若い人が完成したばかりの2A3シングルを持ってきてくれた。たまたまオーディオ好きのお客さんが数名いたので「あ〜だ、こ〜だ」、「なんだ、かんだ」とワイワイやりながらちょっとした試聴会になったのだ。

　さっそく聴いてみた。きちんと動作しているようで、低域から高域までのバランスも問題ないようだ。
　このアンプは初段に12AX7を使った通常のCR結合2段アンプなので、2A3をフル・ドライブできるのか少し心配だったが、確認のためにクリップするまで音量を上げてみたら思いのほかドライブできているようである。
　本来なら、このようなことは測定器で確認しなくてはいけないんだけれど、まぁ、しょうがない。
　若い人の感想は「低音がこんなに出るのか！ホントに良い音だ」と惚れ直したようである。

　ギャラリーのリクエストで2A3を中国製からRCAに替えてみた。若い人を含めたオーディオ好きは「さすが！RCA」。私は「う〜ん・・・やっぱりよく分からないや」
　聴きどころが違うからなのだろう。感じ方は本当に人それぞれである。

　彼ははアナログ・レコードも聴いているので、次はプリ・アンプを考えているそうだ。むずかしいぞー！でも挑戦してほしいな。
2016/11/08 　晴れやかな表情で彼は入ってきた。カウンターに座ると「音が出ました。大丈夫だと思います」と言ってきた。
　「そうか！それは良かった。でも早かったな。で、ちゃんと手順を踏んで電源を入れたかい？」
　「はい。やりました。これが計った電圧です」
　回路図に記入された電圧を確認すると予想された数値が記入されている。問題ないようである。

　感想を訊くと、前回の6AQ5シングルの、小さい出力トランスから少し大きめのトランスに替えた時ほどの変化はなかったようである。それでも低域の厚み、押し出しの強さなどは感じたらしい。
　「そうだね。8インチクラスのフル・レンジでは分かりにくいかもしれないなぁ。少し大型の2way、3wayなら、もうちょっと差が出ると思うよ」

　「次に作るとしたら、やっぱりプッシュ・プルですか？」と彼。
　「シングルは今回のヤツで充分すぎるから、グレード・アップを考えて作るんだったらプッシュ・プルだね。でも、いまのローサーを使うんだったら必要ないかもしれない」
　今回でアンプ作りはおしまいかと思っていたが、次のアンプのことを考えているのだろうか？いいじゃないか！おおいに結構なことである。

　「今度アンプを持ってきますので聴いてみてください」そう言うと彼は店を出た。
2016/11/06 　電話が鳴った。受話器を取り耳に当てると「配線が終わりました。これから持っていきます！」受話器の奥から弾んだ声が聞こえてきた。
　「お〜し！待ってるぞ！」そう言って電話を切ると、早めに犬の散歩を済ませ、ダミーで使う壊れても良いスピーカーを用意して彼を待った。

　重そうに荷物を抱えて彼は1時間ほどでやって来た。はやる気持ちを抑えながらコーヒーを淹れている間に配線時の苦労話などを聞いた。
　「配線チェックは2〜3回しました。誤配線はないと思います。ただし、高圧回路とアース間をテスターでチェックしたら、初段の高圧部分がショートしていました」
　立型ラグ板をシャーシに固定するために使う”L”ラグのところに高圧を配線をしてしまったのだという。
　「なるほど。なるほど。電源を入れる前に気が付いて良かった。『高圧部とアースとの間を、テスターで必ずチェックをする』そのことによく気が付いたね」
　初心者が配線チェックをしたところで、誤配線に気が付かない場合が多々あると思う。しかし、それでもやらなくてはいけないことなのである。

　さあ、いよいよアンプを見ることになった。予想通り見事？な配線である。それでも今まで見た初心者の配線の中では良い方なのかもしれない。
　「ん？これは・・・」ハム・バランサーが固定されていない。シャーシ内部で宙ぶらりん状態である。
　「ヒェー・・・これじゃシャフトを回すことが出来ないじゃないか。ダメ！接着剤を使うなり何らかの方法で固定しなさい！」
　「ハイッ！！」

　「ん？回路図ではここの抵抗は何Ωになってる？220Ωが付いてるぞ」
　普通なら数十kΩが付いているところだ。そのカラー・コードが「赤、赤、茶」となっている。
　「・・・え〜っと・・・そこは22kΩです」
　「そうだよな。『赤、赤、茶』ではなく、『赤、赤、橙』でなくてはおかしいよ。これ見てみな。何色に見える？」
　「ホントだ。『赤、赤、茶』ですね。でも1本1本テスターでチェックしながら取り付けたから間違えてないと思いますけど・・・」
　テスターで確認したらたしかに22kΩだった。「ん〜む・・・なんてこったい。話には聞いていたが、そのようなミス・プリントを目の前で見ることになるとは・・・」
　その他、誤配線ではないが引き回し配線のやり直しなどを指示した。

　結局、他のお客さんがけっこう居たことと、配線のやり直しなどで電源を入れることは出来ず、最終の電源投入までの手順を説明し帰ってもらった。
　2日後、彼はやってきた。

・・・・・・つづく
2016/10/29 　2A3シングルを作り始めた若い人が、シャーシ加工を終えトランスを載せた状態で持ってきてくれた。鉄板を折り曲げ、木材と組み合わせて作ると言っていたので多少の心配をしていたのだ。
　苦労した跡が伺えるその姿に「あ〜だ、こ〜だ」言うことが出来ず今回も黙っていることにしたのである。
　私の表情からなにかを感じ取ったのだろう。
　「・・・なにか？・・・」とその人。
　「うん、言いたいことはある。でも言わないでおく」
　若い人は苦笑いで返事をした。

　「配線が終わったら電源を入れる前に持ってきてね。チェックの仕方を教えるから」
　「ふぇ〜〜〜・・・」
　配線を終えたらすぐに聴きたがっている様子だったので、「ダメだよ！トランスを焼いちゃってもいいのか？球を切っちゃうかもしれないよ。それでも良いのかい？」と、少し脅しをかけた。
　「イヤです。分かりました。持ってきます」

　色々なお客さんと話をして気付くのは、配線を終えるとすぐに電源を入れる人が多く、特に初心者は配線チェックをしないで電源を入れてしまうのである。
　その結果、電源トランスやドライバー・トランスを焼き切った人がいるのだ。昔の製作記事には電源を入れる前のチェックの方法が書いてあるものが多かったと思うが、最近の初心者向けの記事はどうなのだろう？

・・・・・・つづく

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