仕事柄オーディオの話題が多く、質問を受けたり同意を求められたりすることがあり、分かることであれば分かる範囲で答えるし、同じ考え方であればもちろんそれにうなずく。そして、会話の中でどうしても理解できないことが時々出てきて返事に困ってしまうこともある。

　例えば「このスピーカー（もしくはアンプ、カートリッジ、CDプレーヤーなど様々な機器）は音楽が鳴るが、こちらは音楽が鳴らない」または「音楽ではなく音が出ている」というような言葉だ。
　店を始めたころは何を言っているのかさっぱり分からず、ただ首を傾げるだけであったが、最近はどのようなことを言っているのか、その意味だけはおぼろげながら分かってきたような気がする。心に響くような音が出なければ音楽が鳴っているとは言えないということなのだろう。
　この傾向は古い機器ほど音楽が鳴り、新しい物ほど鳴らないようで、また海外製品には鳴る物が多く、国産にはそうでないのが多いようである。さらに付け加えると「箱を上手に鳴らす（響かす）スピーカーは音楽を奏でる。または音楽性が高い」ようである。

　このようなことは、本人がそう思っていればそれはそれで正しく、それで良いのだとは思っているが、私は装置に対してそのような思いを持ったことはなく、とても納得できるものではないから会話の途中このような話になると、たいていは返事をしなかったり「そうですかぁ･･･」などと言葉をにごして逃げてしまう。
　しかし、あまりしつこく言われると我慢できなくなり「それは音楽ではなく、箱が鳴っているのでしょう！」などと、私の表現方法でつい言ってしまう場合があるが。

　これらは受け取り手の問題で、いかようにも表現できるのだ。私にはどのような装置でも、なにか曲をかければ必ず音楽が聴こえてくるのである。
　「いや、それはあんたが良い音楽を聴いていないし、理解していないからだ！」などと言われそうだが････
　「音楽が鳴る！鳴らない！」とか「音楽ではなく音が出てくる」などという言葉は、私にはとてもイヤな言葉なのである。

　また、未だによく理解できないのが「クラシックを聴くならヨーロッパ製品、ジャズならアメリカ製品に限る」などというような言葉だ。ということは日本製品は演歌、歌謡曲、民謡くらいしか上手く鳴らせないということなのだろう。
　真空管にもこれと似たようなことがあり、ECC81、82、83などはクラシック向きで、12AＴ７、U７、X７はクラシックに向かない。または、EL34（6CA７ではダメ）はクラシック、6L6‐GCはジャズ向き。EL34のような細い球は音の線が細く、6L6‐GCのようにずんぐりとした球は音が太い。6BQ5（EL84)のように小さなmT管は音のスケールが小さい。ブランドによってそれぞれ音に特徴がある。など枚挙にいとまがない。

　まだ他にも私には理解し難い話がたくさんあり、心の中では「そんなバカな･･･」と思っていても、そのようなことをその人がそのように感じれば正しいのだと自分に言い聞かせ、否定などするつもりはまったくない。しかし、そのような話を何度も目にしたり耳にしたりすれば、本音はやはり面白くないのである。